白い雪がはらはらと舞った。私の出身は日本の中でも暖かい南の方に位置していましたから、雪を 見たのは初めてではないものの本当に久しぶりで、小さい頃に降った雪のことなんて忘れていたせ いでまるで初めて雪を見たかのように私の心は弾みました。
雪国のお友達は雪の厳しさを私に説いてさも雪を羨ましいなどと軽率なことを今後二度と言うな、 というような目で私を睨みました。それでもまだ見ぬ雪の積もった景色というものを想像して、私 は幾度となく羨んだものです。
「降ってきましたね」「ええ」「雪をご覧になるのは、初めてですか」「いいえ子供の頃に少しだ け」「そうですか」
私と彼の間にあまり会話はありませんでした。少々それが息苦しく感じられるときも時にあったの ですが、私達はいつもはそれを心地よく感じていました。日本は黙っていても相手に通じる、とい うことを美徳とします。私もそれをとてもきれいなもののように感じているので、私はいつも日本 さんのお気持ちを感じ取れるように神経を緊張させています。
「私の周りの人々は雪が降ると寒くなるから嫌、と言いますが逆なんですね」「そうですね。雪は 気温をむしろ下げるものであると耳にしたことがあります。定かではありませんが」
そうですね、と返事をして空を見上げました。まるで狭い空間に閉じ込められて、その遥か上の方 から誰かが白い紙をばら撒いたような不思議な光景に私はほぅ、と白い息をつきました。雪の白さ はなんだか暖かくなる、心も体も。そんなふうにしんみり思いました。少しの雪だったからでしょ うか。雪国の方々は、そう思われないのでしょうか。私はこんなにも刺すような寒さが和らいだよ うに感じますのに。
「冷えますね、そろそろ中に」「もう少し見たいですわ」
珍しく私が異を唱えると、日本さんは少しだけ驚いたような表情をなされて、すぐにそれでは私も 、と少しだけ首を動かして空を見上げられました。日本さんを見ると睫毛や頭、肩に少しだけ雪が 降りかかっていてきれいだなぁ、と素直に思ってしまいました。それから耳などに目を遣ると、赤 く染まっていましたのでああ私はまた失敗してしまった、そう思ってすみません、と口にした。
「何がですか」「耳が真っ赤です。すみませんつき合わせてしまって。寒かったでしょう」「いい え、」
日本さんは少し俯いて何かを言いかけてお止めになりました。続きが気になったのですがそれより も日本さんのお体を、と考えて私が先に縁側へ近づきました。この方は大抵庭から中へあがるとき 、私より先に上がることをなさいません。それを考えてのことですが、このときばかりはなかなか 日本さんがあがってこられなかったので私が何か粗相をしたのではないかと不安に思い、振り返っ たところ彼は先ほどと同じ姿勢のまま動かれていなかったようで、まだ地面が空かを見つめられて いました。
「あの、」「まるで貴女が雪に魅入られて溶けてゆくのではないかと思いました」「、」「貴女の 白い肌は雪によく映えます」
あなたのほうが、という言葉は飲み込んだ。あたたかい雪は肌に触れ水へ還った。
「あなたが雪につれていかれるまえに、帰りましょう」
(08.04.07)(多分雪が書きたかっただけなんだよ・・・名前で呼ばせるか日本と呼ばせるか割 と迷った)