ぐちゅ、だかなんだか汚くて恥ずかしい音がした。生温いようで冷たい塩水が手の甲にぽつぽつと
小さな小さな水溜りをつくっていた。はぁ、とか っ、だとかいう嗚咽だか喘ぎだかわらかない声
も漏れて恥ずかしさは増す。目は既に腫れぼったくて熱い。これは明日腫れてしまうんじゃないだ
ろうか。ああ嫌だ私の眼は腫れるととても目立つんだ。頭も痛くなってきた。泣くと頭痛くなるの
は私だけだろうか。ああもう頭は痛いし目は腫れそうだし嗚咽は止まらない。泣いてもすっきりす
るなんてことほとんどないしいつも泣かない分私の場合泣くときは長時間泣き続けてしまうんだ。
ああもうどうやったらすぐ泣きやめるのか知りたい。
「ばかあめりか」
ひっ、ひっとひくつく喉を懸命に抑えようと力を入れるが努力も空しく私の声は言葉になっている
かなっていないかギリギリのラインだった。ああもうきっと耳まで真っ赤だろうし余裕無い。かっ
こ悪い。馬鹿みたい。こういうときは一人にしてほしいのに隣に当然のようにどっかり座るこいつ
は殆どの確率で私の隣に居る。なんなんだこいつは。嫌がらせか。
「くーきよめ、ばか」
鼻水がびっくりするくらいたれてきて啜ったら恥ずかしい音が出た。ああもう恥ずかしい恥ずかし
い恥ずかしい。たまにしか泣かないんだから泣くときは大声挙げて一生懸命泣きたい。多分一人で
もそんなことできないんだろうけど。だって誰かに聞かれたら恥ずかしいし。
「はは、俺はヒーローだからね。ヒロインを一人で泣かせるなんて出来ないのさ!」
「誰っが、ひろっいんっ、だばかっ」
ああもうほんと嗚咽うざい。喉がひくひく鳴るせいでまともに罵声さえも浴びせられなくてもどか
しかった。っていうか嗚咽もうざいけどアメリカもうざい。なんなんだこいつ!あほ!空気読めっ
て言ったのにヒーローだのなんだのばかじゃないの!本屋にでも行って空気買ってこい!
「がヒロインだよ、俺がヒーロー」
「・・・っ」
思いっきり喉がひくついた。そのせいで私は言いかけた酷い言葉を吐かずに済んだ。
(同じ顔のあんたが隣に居ると辛いのよ)
ばか、みたいだ。カナダ、カナダ、すきです。ほんとうに、すきです。きっとこれからも好きだと
おもいます。私が傷付かないように、がんばって言葉を選んでくれた。ごめんね、ごめんね、ごめ
んね。アメリカにあたろうなんてばかみたい。あくまでも私を慰めようとしてくれてるのに、いや
、慰めてくれてるのに。
「・・・っ、あり、がと」
「・・・!」
はじめて、こーゆーときにアメリカにお礼言った。いつもはすっごく迷惑で、鬱陶しくて、邪魔だ
とおもっていたけど、ほんとはずっとそれに救われてたのかもしれない。アメリカは、私を一人で
泣かせてくれないとおもってたけど、一人で泣かせないでいてくれた、がきっと本当なんだ。
「、別に、」
照れたのか、旧によそよそしいような気配が漂ったことにわらった。
「・・・君が好きになったのが、俺だったらよかったのに」
変な身動ぎの音。
「・・・ずっと、好きだったのに」
アメリカの切ないようなやりきれないような表情をした横顔は、夕陽のせいもあって赤かった。な
んて私は鈍感だったんだろう。
「・・・今度は、アルを好きになれたらいいなぁ」
夕焼けヒーロー
(なんとなく人名だと受け入れた感があるような)(08.08.11)