「オーストリアさんの指は魔法の指ですね」
ふと思いついたことを言うと、オーストリアさんは照れているのか怒っているのかよくわからない表
情でコーヒーカップをソーサーに戻した。「突然何を言うんですか」
このおばかさんが、と言われるのを覚悟していたが、杞憂に終わった。やっぱり照れているのかな、
そう思ってじっと見つめてみたら顔を逸らされた。「だって、」
オーストリアさんの指はほんとうに何でもできる。ピアノを弾いたりお菓子を作ったり裁縫をしたり
、あたしに触れたり。その指の動作ひとつひとつに私はどきどきとかわくわくとかうわあとか、そん
なことを言わされている。すてきな指だと、いつも本気で思うのだ。「だって、何ですか」
あたしは口には出していなかったようで、つまりはずっと黙っていたようで、オーストリアさんは置
いてけぼりをくらったような、心外だというような顔をしていた。私はもうさっき考えたことを言う
のも面倒だったし、なにより恥ずかしかったので曖昧に笑った。ああザッハトルテがとてもおいしい。
「ええと、つまりは私はオーストリアさんがだいすきってことです」
へらっと笑って言うと、オーストリアさんは少し顔を紅くして、またそっぽを向いて「・・・おばか
さんが」とぼそりと呟いた。ああそんなところもだいすきです!
踊る指に酔う
(08.09.30)