カタカタカタカタと音がする。やってもやっても終わらない仕事と忘れる瞬きのせいで目が痛い。ジョーンズが休憩に入ったらしいことを見て、わたしも思いっきり伸びをした。
「ふぅ、俺のとこはもう大分片付いたけど、君のとこはどうだい?」
「あたしは今めんどくさいの任されてるんですーこいつ厄介すぎて終わんない」
私ははぁと溜め息をついた。マグカップが空になって久しい。こうしている間にも目の前のパソコンに表示された数字はどんどん数を大きくしていく。私はサイバー犯罪を取り締まるこの課でも割と重要な役割をさせてもらっている。本当に今扱っている問題は悪性こそは大したことはないものの、その手口の巧妙さと相手を辿ることの面倒くささは本当に厄介そのものだ。
「今日もまた誰かと会うのかい?」
「ええ今度こそいい人を見つけたとおもうの」
「どんな?今度はイタリア人かい?前はフランス人だっただろう?君は好かれるの好きだからね」
「黙ってよ今度はイギリス人よ。真面目で誠実な紳士よ。あなたこそまたふられたの?」
「俺も今度はいいこみつけてね。アメリカ人だよ。趣味のあう元気な子なんだ」
ああそう、と言いかけてやめた。急に言葉を紡ぐのが億劫になったからだ。この男は多分私のことが好きだ。うぬぼれとかそんなのではなく、一応根拠のようなものもある。私に嫉妬させたくてしていることなら全くもって無駄、だと、思う。二人とも独身で、付き合う異性をとっかえひっかえと言われても言い返せないくらいころころ変えている。ただ、私はこいつのように遊びではなくいつも本気で相手を知ろうとしているのであるから、きっと私のほうが罪は軽い、と言わせていただきたい。
私が黙ったせいで部屋にはカタカタカチカチという電子音しかしない。他の人間も休憩所で一服しに行ったり調査に出かけたりしているらしかった。
こんな色気もない陰気なところで恋愛が出来ないかというと、そうでもなかった。私はジョーンズの好みをほぼ理解し尽くしているし、ジョーンズだって私の好みを熟知している。疲れて徹夜になって二人して泊まるときに何もおきなかった訳じゃない。・・・ああなんだか私まであいつのこと実は好きみたいだ。
私はふと時計を見た。驚いたことに新年まであと数時間だ。私は手を止めると近くにあった携帯電話をわしづかみにして番号を押し始めた。その手にそっと大きな手が覆いかぶさってきたと思ったらジョーンズの手だった。やんわりと手を止められる。「もう遅いだろ、やめときなよ」私は口をつぐんだ。
「今日は、二人だけで」
君と電子音
(08.12.31)(いやだけど来年も君といっしょだよ。)
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