んー何おにいさんに話を聞きたいって?どんな話?そう恋愛の話なの。おにーさんの豊富な恋愛経験について知りたいわけね。じゃあ何のはなしをしようか・・・そうだ一番最近はパリのマダムと・・・ごめんってなんだよ真面目な話?お兄さんそーゆーの苦手なんだけど。


あれはまだ俺も若くて髭も生やし始めた頃だったよ。戦争続きでギラギラしててほんと忙しかった。空気もギスギスしてた。俺そーゆーの苦手だから息抜きしたくてさ、煙も人も見たくなかったんだよ。それでてきとーに街から山目指して歩いてったらそこには高めの丘があってさ。もーそりゃそこはのどかで綺麗だったね。誰もいなかったし聴こえるのは草が風に揺られてさわさわいってるのだけだったしね。しばらくここでワインでもあけたら最高だろうなーって思いながら登ってったら予想外にもてっぺんのほうに小さな民家があった。そこはほんとに小さい、そうおもちゃとかにでもなってそーなかわいい家だった。家の前には小さい庭が囲ってあって、そこに家庭菜園もあった。それ見て誰か居るのかとかなんでこんなとこにとか考えてたら家庭菜園の中からむくっと起き上がった陰があった。二人とも軽く驚いてしばらく見つめあったよ。相手はかわいいまだ若いおんなのこでね。あいさつしたらなんだか喜んでくれて、お茶をご馳走してもらったよ。こんなとこに住んでるから知り合いも居ないし人に会うのは街に降りてって買い物する時だけなんだってさ。まだ若いのに。彼女は戦争のことについては疎かったみたいでよく知らなかったらしい。わざわざ教えることもないし俺が求めてたのはそーゆーのだったから、たまに会議抜け出したりしてお土産もいっぱい持ってって、気づいたらいつもそこに居た。ほんとに楽しそうでね、どーやって暮らしてるかってったらどうやら金持ちのじいさんにかわいがられて育った箱入り娘だったらしいんだけど、親が早死にして祖父に預けられてたのにそのじーさんも死んじゃって、あとは莫大な遺産と広大な土地といくつかの牧場だけが残ってるらしかった。土地のいくつかと牧場も売り払って、今はじーさんと暮らした小さい家と、近くの牧場だけなんだってさ。


俺は本当に彼女と一緒に居る時間が好きで、帰りたくないと思う日なんかざらだった。やらしーことなんてこれっぽっちもしてないのにな。・・・なんかあのこにはそーゆーの似合わないしな。
それでそのうち戦争激化で忙しくなった。でも俺はそれでも行った。そしたら突然あの子が居なくなってるんだよ。落ち着いて考えたら常に家に居るなんて限らないのに、いつも彼女は俺を待ってるようにして、あたりまえのように居たから面食らったんだ。俺はなんだか胸騒ぎがしたのも手伝ってそこらじゅう走り回ったよ。似合わないだろ。そこまでさせたんだよ、彼女はさ。それで結局夢中で喉が裂けそうになるくらい走ったあとに小さい牧場に着いた。行ったこともないのに彼女のだとなんとなくわかって、俺は音をあまりたてないように中に入ってみた。そしたら牛と戯れてんだか草と戯れてんだか、は膝抱えて座ってた。俺は安心して後ろからゆっくり近づいていったら、たぶん気配でわかったんだろうな。「来ないでください」って言われたよ。あまりに凛とした、真っ直ぐな声だったからびっくりして立ち止まった。そしたらそのままさ、たんぽぽのはなし、しってますかなんて言うんだよ。ギリシャ神話の。確か男のかみさまが普通の人間に恋をして、しばらく見ているうちに人間のほうが歳をとって老婆になってしまう。その人間がたんぽぽになって、その白髪はたんぽぽの綿毛だとかいう話。一応俺も国だって冗談交じりに言ったことはあったけど、そんなの気にしてるんだとおもった。だからそんなの気にしないって行ったらあたしが気にしますって泣きそうな声で言ったんだ。もう会いに来ないでくださいって言われたときは剣で刺されたみたいだった。悲しかったんだな。しばらく経ってしったんだけど、なんか俺の上司が下っ端を彼女のとこにやって、いまは国の重大なときだから、もう会うなって言ったらしいんだよ。俺はもちろん腹が立ったけど、きっと女なら自分の老いていく姿を見られたくないっていうのは本当なんだろうとおもったから、何も言わなかった。ちょっと仕返しはしたけど。・・・。ああ、俺はレディの嫌がるようなことはしないよ。彼女にはもう会いに行かなかった。・・・だけど何十年もたってから、ほんの少しだけ、遠くから顔を見たいと思って行ったことはある。穏やかに笑ってたよ。






(09.02.10)