見た目からそんな予感はしていたが、スプーンで掬ったオムライスは全体的に水分を含みすぎたようで、どろりとしていた。口に含むとやはり水気が多く、控えめに言っても美味くはない。それをすこしもごもごとやって飲み込んだ。味は薄めだった。は不安を滲ませながら嬉々として俺を見つめていた。はっきり言って照れたが、俺は再びもごもごやってる最中だったので目を逸らすくらいしか抵抗のしようがなかった。
「おいしい?」
美味しくないなんて言えないし言いたくもないけど不味いとかそうでもないとかいう言葉も言いたくはなかったので、俺はもごもごと、なかなか聞き取れないように感想に聞こえるような言葉を述べた。  はそれでも満足だったようで、「あんまり料理はできないんだけど」と言った。全くこんなにいい素材をどうしたらこんなに薄味にできるのかがわからなかった。俺ならもっとトマトの味を、・・・なんて考えているとふとデミグラスソースはうまいということに気付いた。
「デミグラスソース、うまい」
もごもごの延長で言ってやると、の笑顔が更に華やいだ。はそれから少し得意気に、このデミグラスソースをどれだけ研究したか、スペインとフランスにアドバイスをもらったのだとかを嬉々として話した。俺はそれを少し複雑な気持ちで聴きながら、スプーンを口に運ぶ手は緩めなかった。
「ろまが何だったら喜ぶか一生懸命考えたんだよ」
思わず手が止まった。相変わらずはにこにこしているが、何を久しぶりに離婚した夫に引き取られた息子に会った母親のようなことを言うのだろうと思った。ふざけんな。
「あのなぁ」
気づくと言葉が脳を介さずに出ていた。
「俺はと一緒に居るだけで悔しいけどうれしいしおまえ喜ばすためならこんなオムライスだって文句言わずに喜んで食えるし色々情けねーけどほんと同じ空間に居るだけで幸せなんだよこのばか!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
俺は言ってからしまったと思った。は驚いて俺を見ている。今更ながら恥ずかしくてたまらないが撤回もできないし俺には流すこともできなかった。はしばらく呆けて俺を見た後、顔を俯かせて呟くように、「これから、かんがえます」と言った。



アフターディフェンス


















(08.07.12)