「待って下さいよ!」
大きく叫んで溜め息をついた。前方で重そうなドレスを、それでもひらひらとそよがせている彼女はとても生き生きして、楽しそうだった。自然体の彼女は、なんと蝶のような、舞うような動きをする人だろうと思った。
やっと追いついくと、さんはさっきまでの楽しそうな笑みを隠してむすっとした顔をしていた。背を向けていたら、顔が見えないとでもおもっていたのだろうか。
「遅い」
「仕方ないじゃないですか、待ってって言ったのに・・・大体、こんなの危ないですよ」
さんは明らかに更に不快そうな表情をした。彼女は一国の王の子女なのだった。そんな人が僕の家なんかに来て、危なくないとでも思ってるのだろうか。しかもロシアさんとこの王族なんだから、もう僕は少し自覚とか警戒心とか危機意識とかを持ってほしいしロシアさん怖いしで、もうやきもきしているというかハラハラしているのだ。そう言っても彼女は一向に構う気配もない。でもまぁ、部屋に大人しく座らせられて人形のようにしている彼女を見るよりは、これでいいのだと、僕なりに思う。
「こんどは、どこに行く気なんですか」
「わからないわよ、だってここほんとに何もないんだもの」
そりゃそうだけど、とは思うけれどやっぱり少し傷付く。う、とつまっているとさんは反省でもしたのか口を尖らせて「ちょっと、」と声をあげた。謝らないところはやっぱり偉い方なんだなぁ、としみじみ思う。
「どこか連れてってよ、私よりはどこか観るようなとこ、知ってるでしょ」
これはたぶんさんなりの、謝る代わりのフォローか謝罪なんだろうなぁ、と思うと苦笑した。僕は仕方が無いので歩きだしながら、どこへ連れていけば満足してもらえるのかを考えた。女の子の喜びそうなところなんて僕にはよくわからない。
「そもそもどうして僕の家なんかに来たんですか?何も観るところなんてないのに」
言った途端に、ああ失敗したと思った。きっと迷惑がっていると思われたのだろう。さんの顔は怒りと傷付きの表情が半々になっていた。
「なんでそんなこと言うのよ」
「あ、いや、だって僕はよくロシアさんに呼び出されるし、」
だからいつでもさんにはお会いすることができたのだ。お会いする、と言っても皇帝や皇后の影に隠れて立っているさんをエストニアやリトアニアの隣で見ているだけといったことも多いのだけれど。
「・・・誰かさんに会いに来たのよ、馬鹿ね!」
ふん、と鼻を鳴らして僕を追い抜いていくさんを見て笑った。かわいいぼくのおひめさま。
(これでバルト三国はコンプリート!リクありがとうございました!)(09.08.10)