え?おれの好きな女の子の話?そうだなぁ、おんなのこはみんな好きだけど、一番好きだったのはちゃんかなぁ。ちゃんの話?いいよーちゃんは画家でね、俺はファンだったんだよね〜。 すっごく綺麗できらきらした絵を描く子だったんだけど、評価は小規模だけど確かなものだったから小さい個展をたまに開いてもらうって程度だった。 あ、といっても大都市だったからすごいことには変わりないんだよ?で、俺はちゃんの絵がすっごい好きだったからさ、俺が知る限りで三回目くらいの個展のときに初日に行って本人にすごいよー、 綺麗だよって伝えたらちゃん驚いた顔をして控えめにはにかんだんだよね。それから俺は女の子としてもちゃんのファンになっちゃったからその後食事に誘って仲良くなって、たまに  ちゃんのとこに 遊びにいけるくらい仲良くなれたんだ。


ちゃんのアトリエは窓が高い位置にあって、中は木漏れ日が神々しく照らしてて、ほこりがきらきら光ってた。こんな綺麗なところで絵を描くからあんなにきらきらした絵が描けるんだなぁ、 って俺はまたに見惚れちゃったりしたんだよね。大抵そこに行くとちゃんがいつも絵を描いてて、俺が入ってきても集中してて全然気づいてくれなくて、でも話しかけるのは悪いから俺はしばらく ちゃんの後姿と描かれていく絵をじっと見る、っていうパターンが多かったんだけど、ある時から変わった。ちゃんはぼーっと飲むわけでもないココアに口をつけてたりとか、絵の具がついた筆をじっと眺めていたりとか、そんなことが多くなった。
その日はそれが更にひどくてさ、ちゃんぐったり椅子に座る、っていうかもうほとんど寝てた。俺が挨拶をしてもこっち向かなくて、立ち上がりもしなかったからおかしいと思って、 俺はこちらに背を向けるかたちで配置されている椅子に近づいたんだ。そしたら俺が近づききる前に、ちゃんは生気のない声で、かけなくなりました、って、ぽつりと言ったんだ。 ちゃんの目の下には大きなくまができていて、髪もいつもよりちょっとぼさぼさしてて、微笑んでさえいない。スランプなんていつか急に抜け出てるものだよ、心配ないよって言ったら大声で違うんです、 って言うんだよ。わかるんだって。きっとこれからも描けないんだって。俺も長いこと生きてきて、そして絵を描いてきたからわかるけど、そんな気がすることなんていっぱいあるんだ。それでもおいしいもの 食べてシエスタしたらなんだか元にもどってるみたいなこともたくさんあった。でも彼女はどうしよう、と言って泣いた。ファンの一人である、俺の前で。
ちゃんは生きるように、息をするように絵を描いていて、だから俺もその絵が好きだったんだけど、彼女は描くことを天命のように考えていた。芸術家にはこういう人が多いんだけどね。最近はスラン プで死んじゃう芸術家が多くてさ、俺はちゃんにはそんなふうになってほしくなかった。だから、死なないでね、って言った。そしたら彼女は、それもいいかもしれませんね、って言うんだ。描けなくったっ て生きてていいんだよ。俺はただそう言いたかっただけなのに、ちゃんには何かの啓示のようなものだったのかもしれない。なんてことを先走って言ってしまったんだろう。俺があの時死、なんて言葉使わなかったらもしかしたらちゃんは死のうなんて考えなかったかもしれない。また、あんなの気のせいでした、ばかですね、って言って絵を描き続けていたかもしれない。でもちゃんは次の日の朝早 く、いつものきらきら光るアトリエの中できれいに息を止めていた。どうやって見ても綺麗で神々しかったから、ちゃんが芸術品のようで泣けなかった。力の抜けた手には筆が握られていた。もしか したら毒か薬かを飲んだ後に後悔してここまで走ったのかもしれない。俺にはわからないけどね。今でも大好きな、特別な子だよ。
(11.03.15)